木工において初歩的な仕上げであるニス仕上げは、仕上げの方法として広く知られている一方でその細かな手順はあまりよく知られていません。「木の仕上げ」であることに注意をひかれがちですが、実際には一度でもニスを塗った表面はただの樹脂であり、木とは全く無関係の塗装のノウハウが必要です。
ここでは動画(記事最下部にリンクがあります)で紹介した内容を少し深堀りして解説したいと思います。
ニス仕上げの手順
ニス仕上げの手順をまとめると以下のような手順となります。
- 木のやすり掛け
- 塗装
- 塗装面のやすり掛け
木のやすり掛けをして表面を整えたら塗装を行い、次の塗装に向けて塗装面のやすり掛けを行います。この塗装面のやすり掛けが非常に重要で、ニス仕上げの成功と失敗をわける最も大きなポイントとなります。
1.木のやすり掛け
木のやすり掛けは「ランダムサンダー」を使用します。
オービタルサンダーという仕上げ用のサンダーもありますが、研磨力が低く汎用性が劣ります。特に仕上げにこだわりたい場合はオービタルサンダーがあっても良いですが、市販の家具と変わらないレベルの仕上がりで問題ない場合にはランダムサンダーで十分です。汎用性が高く、使い勝手も良いです。オービタルサンダーだけで仕上げようとすると、事前に木の表面をある程度整える必要があり、刃を良く研いだ自動カンナや電気カンナといった道具があわせて必要になります。また、更なる仕上げを求める場合には液状のコンパウンドを使うためにポリッシャーが必要になりますが、木の仕上げでそこまでする必要はないでしょう。
1-1.#60 木の小傷や墨付けの除去
やすり掛けは60番のやすりから始めます。
このやすり掛けの目的は木の表面の小傷や鉛筆などでつけたマークを消して表面を均すことにあります。もしプレーナー済みの木材で、もう木の表面がツルツルとしており綺麗な場合にはこの工程を飛ばすことができます。
やすり掛けのコツは一貫しており以下の2点のみです。
- ランダムサンダーを傾けて使用しない
- 一部だけにサンダーを当て続けない
この2点さえ守れば特別な技術は必要ありません。
例えば鉛筆のマークを消したい場合でも、サンダーを傾けて強く当てたり、マークの部分だけにサンダーを当てるのではなく全体を往復させます。マークの位置だけサンダーを当て続けると表面に大きなうねりのような凹凸ができ、それ以降の修正が困難になります。(実際には極端に一部に偏らなければ良いので、マーク付近気持ち多めに往復させる程度なら全く問題ありません)
後ほど詳しく解説しますが、仕上がりを左右するのは一貫して表面の平滑さです。平滑であればあるほど綺麗に仕上がることを念頭に置くと良いです。
目に見える小傷や鉛筆のマークのあとが消え、手触りもザラザラした部分がなくなれば60番の工程は完了です。
傷が深い場合や、鉛筆で強くマーキングをしてしまい傷が消えない場合はプレーナー加工が望ましいですが、道具がない場合には根気強く作業を続けます。
1-2.#120 やすり傷の除去
60番のやすりで表面を均すことができたら、次に120番の出番です。
中間に80番も存在しますが、1つ飛ばしで問題ありません。この120番の目的は60番と異なり、60番のやすり掛けでできたやすり傷(研磨痕)を磨き落とすことです。60番は粗めのサンドペーパーですから、どうしてもやすりの痕が残ってしまいます。120番を使ってこれを消します。
同じ60番でも手で磨くとやすり傷がかなり目立ちますが、ランダムサンダーを使うとそれほど目立ちません。それでもよく見ると傷が入っていますし、手で触った感触が少しだけざらついています。
120番の工程は全体がスベスベとして60番のやすり傷がなくなれば完了です。この工程はそれほど時間はかかりません。
1-3.#240 やすり傷の除去
前工程と同様に、120番のやすり傷を消すのがこの工程の目的です。
ランダムサンダーを使って120番のやすり掛けを行った場合、ほとんど目視できる傷はなく、表面もスベスベと滑らかです。ここで更に240番で仕上げることで、より一層表面の滑らかさが向上してサラサラとしてきます。
120番から240番の変化は大きいですが、それ以降の変化はそれほど多くなく、労力に見合った成果は得られないため木の仕上げは240番で完了で問題ありません。
2.塗装
ニス塗装には特別な技術は必要ありません。
薄塗りが原則で厚塗りを避けます。詳しい理屈は後ほど解説しますが、難しく考える必要はありません。とりあえず塗ってみて、最後に余分なニスを除去して塗装面を均すイメージで優しく刷毛を全体に滑らせてあげれば完了です。
刷毛について
刷毛には通常の刷毛以外にもスポンジ刷毛やコテ刷毛、ローラー刷毛などの選択肢があります。スポンジ刷毛とコテ刷毛は通常の刷毛に比べてきめ細かな仕上がりで塗装面が綺麗に仕上がりやすいのです。しかし、再利用性とコストパフォーマンスが低く、今回紹介する手順で作業すれば仕上がりの差もないため今回は使用しません。通常の刷毛か、広い面を塗る場合にはローラー刷毛を使用すると良いでしょう。
ニスについて
ニスには大きく分けて水性と油性があります。
ニスは大きく分けて樹脂と溶剤で構成されており、樹脂はいわゆるプラスチックのようなものです。ニスが固まると、この樹脂が残ってプラスチックの層ができるわけです。樹脂の種類によってウレタン系やアクリル系など更に細分化されます。溶剤は水性なら水、油性なら油です。これ以外にも添加剤などが含まれますが、主にこの2つで構成されます。
水性は溶剤が水であることから透明感が強く、仕上がりが自然な傾向があります。油性は溶剤が油で色もやや飴色がかっており、より深みある仕上がりになります。基本的には溶剤の臭いが気にならない水性がオススメです。同じツヤありの製品でも、製品によってツヤ加減が異なるためお気に入りのニスを探してみるのも良いでしょう。
ニスの調整
ニスは溶剤が揮発すると粘度が高くなり、塗装時の塗りムラや刷毛のあとが残る原因になります。単純に施工性が悪くなるため、もしニスの粘度が高すぎると感じたら薄めます。やや薄めに調整する方が綺麗に仕上がりやすく「ややとろみのついた水」くらいの粘度にすると良いです。ガムシロップ並に粘度があると硬すぎるので、水性ニスなら水、油性ニスならシンナーで薄めます。基本的にニスの説明書きにある規定量の範囲内で薄めますが、ややオーバーしても構いません。油性ニスは保管状態や気温によって粘度が高くなりやすいため特に注意が必要です。
3.塗装面のやすり掛け
塗装を十分に乾燥させたら、塗装面のやすり掛けを行います。
これをやるとやらないのでは仕上がりに雲泥の差があるため必ず行います。
一度目の塗装の表面を触るとザラザラとしていることに気が付くはずです。これは塗装面が平滑ではないことの現れです。まずは120番のやすりを使って表面を研磨していきます。ニスの塗膜は120番で研磨してもなくなることはないので、しっかりと研磨します。研磨された部分は白い削りカスが出ますが、これがニスの樹脂成分です。研磨できた部分は白くなり、研磨できていない部分はニスのツヤが残ります。これを全体が白くなるまで続けます。
よほど厚塗りしたり、液だれしていない限りはそれほど時間はかからず完了するはずです。
120番で仕上げた表面には120番のやすり傷が残っているので、更に240番で仕上げます。240番で仕上げると仕上がった表面はツルツルとしており非常に滑らかな面が仕上がっていることがわかると思います。
4.塗装と研磨の繰り返し
これ以降は手順2の塗装と手順3の塗装面のやすり掛けを好きなだけ繰り返します。
必要最低限であれば2度塗りで終わりでも問題ありませんが、3度塗りをした方が安定します。4度塗り以降はあまり大きな違いはないようです。なお、ツヤを出すためには塗り重ねの数ではなく、ツヤのあるニス製品を選ぶ必要があります。
2度塗り以降のやすり掛けのポイント
1度目の塗装が終わった後は120番→240番の順でやすり掛けを行いました。
2度目の塗装が終わった後は1度目より仕上がった表面が良くなっているため、1つ段階を上げて240番→320番の順でやすり掛けを行います。
同様に3度目は320番→400番と番手を上げていきますが、体感上は400番以上の細かい番手を使ってもそれほど差はでないため400番を上限として4度目以降は400番のみ使用すれば良いでしょう。
あまり知られていない最後の仕上げ
すべての手順が完了し、最後の塗装が完了すればスベスベの塗装面が得られたはずです。
ただ、それでも乾燥中に付着してしまったゴミやちょっとしたミスによって、手で塗装面を触れたときにごく僅かな引っ掛かり感や、滑らかさが不足していることに気が付くかもしれません。
そんなときに便利なのがコンパウンドです。
液状のやすりのようなもので、粒子が非常に細かいのがポイントです。ニスの塗装面は樹脂で、車などの塗装と同じものですから、車用の粗めのコンパウンドを使って最後の仕上げを行います。
コンパウンドはよく振ってから木の表面に出し、ランダムサンダーにフェルトパッドや1500番以上の細かい番手のペーパーをつけて磨いていきます。本来はポリッシャーがあると良いのですが、ランダムサンダーで代用しても問題ありません。ランダムサンダーには集塵用の穴が空いていることがありますが、ここにコンパウンドが入ると良くないので、ペーパーの位置をずらして穴を塞ぐかテープなどで穴を塞いで使用します。
コンパウンドで軽く磨いてやると、表面の僅かなザラつきもなくなり、本当にスベスベとした表面が得られていることがわかるはずです。
更にここからツヤを一段引き上げたり、保護をしたい場合にはワックスを使用します。
ワックスは元々細かな傷や凹凸を埋めて表面をコーティングするものですから、用途としてはピッタリです。ニス仕上げ後の表面は木ではなく樹脂なので、蜜蝋や白木用のワックスを使う必要はなく、例えばツヤを重視するなら床用のツヤを売りにしたワックスなどで仕上げると一段階ツヤが引き上げられます。定期的に塗布することで表面の保護にもつながります。
おまけ:塗装の秘密
塗装の仕上がりを左右するのが塗装面の平滑さです。平らであればあるほど仕上がりは美しくなります。
しかし、木が反ることが知られているように木は樹種やその部位によって水分量や吸湿性に差があり、動きにも差があります。極端に言ってしまうとウネウネと動くスライムのようなものなのです。つまり、どれほど熟練の職人でも、精密な機械でも木の表面を厳密に平滑にすることは不可能です。
とはいえ、ある程度綺麗にすることは可能で、それが手順のなかでも解説した60番から240番のやすりを使った仕上げです。240番より細かな仕上げが必要ない理由は、木の表面の平滑さを追求するよりもニスの塗装面の平滑さを追求した方が効率が良いからです。
木の表面は厳密には平滑でなく凹凸があります。この上にニスを塗ると、液体と固体の付着力が働きニスは木の表面に沿って自然と馴染みます。コップに入れた水が水平な面に落ち着くように、ニスも薄塗りすれば自然の木の表面に沿うように馴染むのです。(厳密にはこの2つは違う法則ですが)
しかし前述の通り木の表面は厳密には平滑ではありませんから、これに沿って馴染んだニスの表面も平滑ではありません。そこで、この塗装面を研磨します。木と違ってニス(樹脂)は動きもなければ硬さもあり研磨しやすいです。正確には木の動きにあわせてニスもある程度の柔軟性をもって動きますが、ここでは深く考える必要はありません。ニスの塗装面の研磨は、研磨した部分が白くなることからも誰でも容易に表面全体が研磨できたかどうかが見分けられるのも重要なポイントです。
研磨したニスの塗装面は、240番で仕上げた木の表面より平滑であり、ここに2度目の塗装をするとグッと仕上がりの精度が向上します。
このように、完全な平滑にできるだけ近づけつつ、手間と労力に見合った程度の仕上がりを求めるのが塗装仕上げです。