木工を始めるとどうしても欲しくなるのが高性能な「集塵機」です。そして集塵機を手にすると次にほしくなるのが「サイクロンセパレーター」でしょう。DIYでも当たり前に取り入れられるようになったサイクロンセパレーターですが、メリットばかりが強調されがちで導入してから後悔されたり、使うのを止める方も多いと思います。メリットはもちろん大きなゴミを分離できることにあるのですが、今回はそのデメリットに着目しながらサイクロンセパレーターを解説します。
家庭用の掃除機や小型の集塵機を接続して簡単にサイクロン集塵機を製作できるアイテムがたくさん出回っています。 安価に「サイクロン集塵機」を自作できる一方で、いくつかの注意点を守らなければ肝心の「吸引力」が低下してしまいます。流速も低下し、ホース内の詰まりや集塵効率の低下が起こります。
サイクロンセパレーターは集塵の大敵
サイクロンセパレーターは集塵機の最も重要な要素である「吸引力1」を著しく低下させます。
この問題を解消するために様々な形状のサイクロンセパレーターが登場していますが、重力と遠心力を利用した方式に違いであることに変わりありません。例えば古典的ともいえる以下のようなセパレーターでは吸引力の低下は避けられません。また、細かな粒子は分離できず集塵機のフィルターに吸着されますが、細かい粒子でフィルターが閉塞し吸引力の低下を招きます。
円錐形の サイクロンセパレーター | 円形のタンクを活用した サイクロンセパレーター |
円錐形の古典的な高効率サイクロンセパレーター。分離された粉塵を受けるためのタンクを別途用意する。 | 分離効率を犠牲にして粉塵を受けるタンクとセパレーター機能を一体化させたサイクロンセパレーター。スペース効率が良い。 |
「サイクロン」はダイソンなどのCMのイメージから強い吸引力があると勘違いされがちですが、実態は真逆で極めて非効率的な仕組みです。集塵機が生み出す吸い込む力をサイクロンセパレーターが大きく減衰させます。粉塵を撒き散らさないための苦肉の策としてフィルターと組み合わせて導入するものであることを覚えておく必要があります。
比較的大きな進歩を遂げたのがHarvey社のGyro Air技術やそれに類似する技術を用いて作られたセパレーターで、通常のサイクロンセパレーターでは生み出せない強力な遠心力で分離し、高い分離効率と静圧の低下を引き起こさないことを売りにしています。しかし、それでもなお吸引力の低下は免れません。また空気の流れる経路が複雑で狭いことから大き目の木くずがすぐに詰まります。木工においては一時分離に古典的なサイクロンセパレーターを使用し、更に二次分離にこのGyro Air技術を使用したセパレーターを使用し、最後にフィルターで細かな粉塵を濾す構成が理想的ですが、趣味の世界でフィルターを含めて三次分離まで行う必要性には疑問も残ります。(場所もたくさん必要です)
国内ではMEGATONやJET社の製品が流通しています。
以上の理由から、趣味のDIYにおいてサイクロンセパレーターを導入するメリットはフィルターやタンクのメンテナンス頻度を下げることだけです。それ以外のあらゆる性能が犠牲になります。加えて吸引力の低下により細いホースではホースの詰まりが起こりやすくなり、メンテナンス頻度すら悪化する可能性があります。
サイクロンセパレーターを導入すべきでないケース
まずはじめにサイクロンセパレーターを導入すべきではないケースを紹介します。
小型集塵機を使用している場合
以下のような小型の集塵機を使用している場合や、更に性能が劣る家庭用掃除機を使用している場合にはサイクロンセパレーターは推奨されません。
こうした集塵機は風量に乏しく、サイクロンセパレーターを導入することでただでさえ低い風量が更に犠牲になります。ただし、こうした小型集塵機は風圧が高い特徴があり、サイクロンセパレーターによる風力の減衰が比較的穏やかです。そのため用途によっては吸引力の低下が気にならないケースもあるでしょう。
細いホースを使用している場合
ごく細かな粉塵を吸い取る場合を除いて25mmや38mmといった細いホースとサイクロンセパレーターの組み合わせは推奨できません。最低でも50mm、できれば100mmのホースが必要です。ホースが太ければ太いだけ同じモーター(インペラ)でも風速は落ちます。100mmのホースを使う場合にはそれなりに大型の誘導モーターで駆動するインペラが求められます。吸引力はインペラが吐き出す空気により生み出される負圧により生じるため、持ち運びできるような小型集塵機ではどうしても限度があります。
細いホースのなかでも蛇腹状になっているホースは吸引力をあらゆる方面から低下させます。吸引力はホースの凹凸・カーブ・接続部の形状などありとあらゆる場所で減衰されます。また、減衰した吸引力ではホースの詰まりを起こしやすくなるためせっかくのメンテナンス頻度を下げるという目的すら果たせなくなってしまいます。
サイクロンセパレーターを導入する価値があるケース
それではどのようなケースであればサイクロンセパレーターを導入する価値があるのでしょうか?
大風量・大口径ホースの集塵機を使用する場合
一つ目のケースは、性能にゆとりのある集塵機を使用している場合です。
一般的な集塵機は三相200V電源が必要で、一般家庭では新たな契約と工事が必要になります。そのためDIYの場合には家庭用電源で動作する単相100Vの集塵機が望ましいですが、選択肢は少なく株式会社ムラコシの「MY−75X」などがこれに該当します。DIY大国と言われる北米などからの輸入品もいくつか選択肢が存在します。
風量は毎分13立方メートル大風量とは言えませんが、100Vで動作する集塵機としてはこれくらいが限界になるかもしれません。ただし、インペラとタンクの接続部を見てわかるとおり、こちらの製品は簡易的ながら遠心力を利用した分離を行っており、別途サイクロンセパレーターを取り付けても無暗に風量を落とすばかりで意味がありません。(もちろん更に分離工程を追加して更なる分離を目指したいのであれば話は別です)
わざわざサイクロンセパレーターを取り付けるのであればフィルター側の改善に取り組んだ方が良さそうです。こうした集塵機には30マイクロメートル程度の粗目の粉塵を濾し取ることができるフィルターバッグが付属しますが、1マイクロメートルまで対応したフィルターバッグやキャニスターフィルターも販売されています。そのためこうした集塵機では、まずフィルターをグレードアップさせてそれでも不満がある場合にサイクロンセパレーターを追加すると良いでしょう。
徹底的に粉塵を除去したい場合
集塵機から排出される空気には微細な粉塵が含まれています。集塵機に元々装着されているプレフィルターでも、目に見える粉塵はキャッチできます。ただし人体に害のある細かな粉塵を少しでも抑えたい場合や、工場などで粉塵の排出を抑えなければならない場合にはプレフィルターだけではなくより細かいフィルターの装着が必要です。
こうしたケースでは、フィルターのメンテナンス頻度を下げるために大き目の粉塵を分離してくれるサイクロンセパレーターが役立ちます。ただし、これも余裕のある大風量の集塵機を使用し、同じく大規模な集塵システムを構築している工場などの話であり、趣味の範疇で排出する粉塵を抑えたいのであればフィルターを追加するだけで十分です。
まとめ
サイクロンセパレーターは大型の集塵システムを持つ工場などの設備として、風量や風速の設計に基づいて排出する空気を濾過するシステムを補助するパーツとして用いられるものです。
そのため、趣味のDIYの範疇では不要なケースが多くデメリットばかりが目立ってしまいます。一見すると粉塵を分離することができて目に見えた喜びがありますが、実は多くの弊害があって果たしてどれだけの人がサイクロンセパレーターに100%満足しているのか気になるところです。特に木工においては細かな粉のような粉塵だけでなく、切りくずや削りくずといった大きな木片が吸い込まれることもあります。丸ノコや据え置き工具類のように集塵範囲を大きく想定する必要のある工具も多数存在しますし、一瞬でペール缶程度のタンクを埋めてしまうプレーナー類の工具も存在します。
斯くいう私もサイクロンセパレーターをうまく取り入れられないものかと四苦八苦したことがありますが、悪戦苦闘の結果としてサイクロンセパレーターの使用を止めました。
ただし、用途と集塵機の性能がうまく嚙み合えばデメリットが気にならないこともあります。古典的なサイクロンセパレーターは自作も容易で既製品も安価なので一度試してみても良いのかもしれません。
- 吸引力とまとめて呼称していますが、風量・風速・静圧・ポート形状・集塵範囲など様々なポイントで変わる粉塵を吸い取る力をまとめてざっくり吸引力と呼んでいます。風量・風速・静圧が主な集塵機の力を表す数値であり、相互に関係しあっています。 ↩︎