曲木は木の柔軟性を利用した伝統的な加工手法のひとつです。趣味の木工の世界では「加熱」と「積層」による曲木が主流です。薬品を使った曲木も可能ですが薬品の入手性や危険性、処理と保管の問題もあり主流とは言えません。
よくある失敗の原因は大きく分けて2つあります。
適した木材の選択ができていない
曲木に適した木材は、主に樹種と木理(木目)、厚み、そして乾燥状態で選びます。
樹種としては疎密が「密」なものが適しています。疎密とは木のきめ細やかさであり、身近なものではケヤキやブナ、カエデの木などが適していると言われます。ざっくりと言えば重く硬い木が適していますが、必ずしも重く硬ければ曲げやすいわけではありません。ただし、厚い板を曲げることを避ければ大抵の樹種で曲木が可能であり、あまり樹種にとらわれる必要はありません。
木理は曲げる面に対して真っすぐ進むものが良く、これが斜めや横だと曲木に適した樹種であってもあっさりと割れてしまうことがあります。成功することもありますが、成功率がガクッと下がります。
厚みは加熱設備とジグによって変わります。木を曲げるには熱が木の中心部までしっかりと届いたうえで一定時間加熱する必要があるためです。アイロンを使った曲木では3mm程度まで、スチームクリーナーを使った曲木では10mm程度が上限になります。スチームクリーナーでも比較的タンク容量の大きなものと、熱を逃がさないボックスが用意できれば20mmや更に厚い木材まで曲げることができるようですが、20mmの木材を曲げるには非常に大きな力が必要でてこの原理やギヤ、ネジなどを駆使したやや大掛かりなジグが必要になります。10mm程度であれば比較的手軽で大掛かりなジグは不要です。割れや座屈も起こりにくいため、20mmの木材が欲しい場合でも10mmずつ曲げたものを積層曲木の手法で貼り合わせる方法がおすすめです。
乾燥状態は悪い方が曲げやすいです。曲木の原理は木材を構成する細胞同士をつなぎとめる細胞間の接着剤のようなものを熱で緩め、緩んだ隙に曲げて固定します。接着剤が乾燥して硬化するように、木は乾燥すればするほど柔軟性を失います。そのため人工乾燥されたホームセンターに並ぶような木材は特に曲木には適しておらず注意が必要です。基本的に天然乾燥されたものを選び、曲木の前に数日~数週間程度水に漬けておくことも有効と言われています。理論的には伐採したての未乾燥の木材の方が曲げやすいですが、曲げた後に数年あるいは十数年かけて徐々に変形を伴いながら乾燥するため現実的ではありません。
曲げ方が悪い
木材を曲げる際にはジグや型に押し当てて曲げますが、この際に瞬間的に大きな力がかかったり、木の一部に集中して力がかかると割れの原因になります。また綺麗なアールを描かずに座屈を起こすこともあります。
そのため曲げる際には力を均一に分散してかけることが重要です。大掛かりな曲木になると強度の観点からもベルト状の金属(帯鉄)を使って締め上げるように木を曲げていきます。ベルトまで用意できない場合には、端から少しずつクランプで固定しながら徐々に優しく曲げることを意識すれば十分曲木が可能です。特に10mm程度までの薄板であれば、この方法でも綺麗に曲げることができます。曲線に沿ってクランプで固定するには、ジグ側もクランプをかけるポイントを事前に用意しておく必要があります。